Interview vol.7
伊藤沙月×竹下雄真

チームワークの重要性
『適材適所で取り組む、サポート体制』

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伊藤沙月(いとう・さつき):生年月日:1991年6月21日。出身地:宮崎県。所属:拓殖大学。2009年3月 全日本女子アマチュアボクシング選手権 ライトフライ級 優勝。2010年3月 全日本女子アマチュアボクシング選手権 フライ級3位。2009年全日本ライトフライ級女王の座を射止めると、その美しい容姿も相まって、 一躍日本女子ボクシング界を代表するヒロインとなった。ボクシングを開始してその座に輝くまでに要した時間が2年弱という天性の素質も注目を集めた。 現在は名門拓殖大学唯一の女子部員として活動しており、その将来が大いに期待される存在である。

――― お二人が出会ったきっかけは、何だったのでしょうか。

竹下雄真(以下:竹下)
「友人が取り組んでいる、サンライズジャパンいうスポーツ活動において、女子ボクシングの元全日本チャンピオンとして紹介されたのがきっかけです。
美女アスリートとして、美しさの精度も高く、また、高校二年生で全日本チャンピオンになり、美と実力を兼ね備えた選手だと感じたのが最初の印象です」

伊藤沙月選手(以下:伊藤)
「お会いしたのが、ちょうど試合の直前だったこともあり、さまざまな調整を手掛けてくださることを心強く思ったのを憶えています」

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――― いわゆる師弟関係でのサポートから、専門家が集まるチームサポートへと移りつつある現状を、どのようにお考えでしょうか。

竹下:
「スポーツに限らず、例えば、医療などは、疾患の種類ごとに専門医が担当します。またコンサートでも、音楽、ダンス、演出など、専門分野ごとに担当が分かれます。
クライアントをベストな状態に導くのが僕らの仕事であって、そのために、たった一人が独占して全てを担当するのではなく、目的に向け、サポートチームを作っていくのが、必要なのではないでしょうか」

――― コンサルティングのようですね。

竹下:
「はい、さらなる高みを目指すためには、チームとして取り組み、選手の強みを伸ばすべきでしょう。
伊藤選手の場合も、精神的な部分を信頼しているお坊さんに相談し、食事や生活面は専門担当をつけるなど、その道のプロであり、信頼できる人々の中からベストの人材を集め、今までの彼女のネットワークと協調しながら、最良のチームを作りあげました」

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――― チームによるサポート体制に変わられていかがでしたか。

伊藤:
「それまでは気持ちが追い込まれると、自分を閉ざしてしまうこともありました。
チームでサポートしていただくようになって、それぞれの担当の方が親身になって私のことを考え、アドバイスをくださるので、人を信じることの大切さを知りました。チームの皆さんには本当に感謝しています」

竹下:
「彼女が良くなるためにと、ときには、罵倒することもありました(笑)
まあ、きっと僕はそんな役回りなのでしょう」

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――― チームでサポートしていく中で、心がけているのはどういうところでしょうか。

竹下:
「論語でも、『知らないことは知らないと言う』とあるように、知っているふりをしないように気をつけています。
例えば、いくら優秀なトレーナーでも、ときには知らないこともでてくるでしょう。そのとき、「知っている」と伝えたとします。情報社会ですから、いずれは、相手も「あれ?」と気づき、心のすれ違いが生まれてしまいます。
知らないことを知っている様にするのではなく、知っているチームの仲間に聞けばいいのです。」

伊藤:
「チームの皆さんを信頼できてこそ、初めて私も頑張れる。疑心暗鬼では疑問ばかりが生まれて、練習に集中できません。自分を偽ることなく、常に正直でいなければ、チームの皆さんの信頼を得ることはできません。信頼が本当に重要だということに気づかされました」

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竹下:
「競技の種類や、選手のバックボーン、これから上がっていく選手、一時代を築いた選手など、人によってチームづくりは異なりますが、最も大切なのは、信頼や信用。
何事も同じですが、隠し事があれば、チームとして機能しない。信頼し合う環境で、その道のプロが力を発揮してくれれば、必ずいい方向へ進む。トップスターのプロモーターが、1人で抱え込まず、その道のプロを連携して、プロジェクトを進めるのはそのためでしょう」

――― チームから生まれるパワーにも、期待ができそうですね。

竹下:
「はい。マスターマインド(=同じ方向に大きなパワーを生む)といい、確かに効果があります。
特に、ボクシングは孤独です。相手を殴りにいき、自分も殴られる、それを全て一人でやる。それゆえ、チームでサポートすることは大切だと思います」

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伊藤:
「以前より、責任感が生まれました。みっともないところを見せるのは、チームの皆さんに申し訳ない。私にはチームがあるから頑張れる。良い時も、悪い時も一緒にいてくれるありがたさを感じています」

――― 今回12月に行われる全日本に挑戦しようと思った理由は?

伊藤:
「今まではどんなに怒られても、人前で泣いたことがなかった。なのに、涙がでてきて、自分がチームを信じていることを実感した。この環境を逃したくない、次に挑戦したいと強く思いました」

竹下:
「彼女はきっと、今までで一番いいコンディションで、次の試合には臨めるでしょう。ボクシング関係者の方々も皆、伊藤選手はセンスがあるといわれている・・・。最高の状態でリングにあげたいと思っています」

――― 次の試合が楽しみですね。

伊藤:
「試合まで一週間。ここまで肉体も精神も技術もチームの皆さんに高めていただいたので、後は楽しんでやりたい。走り込みもできています」

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竹下:
「朝6時に一緒に走る担当をつけたんです。超一流選手と一緒ですよ!(笑)」

伊藤:
「生意気ですね。最初はなんで朝早くから監視下で走らなければならないのかと、いやいやでしたが、今ではその重要性もよくわかります」

――― 伊藤選手の持つパワーや、人間的な魅力でしょうか。

竹下:
「僕は、Mental(心)・Skill(技術)・Physical(身体)・Star(スター性)・Luck(運)の五つで選手を数値化します。
伊藤選手は、中でも星のスコアが高い。いろんな人が彼女のために自分の力を発揮するのは、彼女の星のパワー、何かキラキラしたものに惹かれるからだと思います」

竹下:
「同じ釜の飯を食い、朝6時に一緒に走る仲間がいて、心のパワーが強くなりました。技術・身体・心の向上とともに、トレーニングのサポートにより、昨年とは全く違う状態になっています。
さらに、今年はオリンピックイヤーでしたし、オリンピックディスタンスの一番マッチする階級に階級を上げ、レベルの高い良きライバルと切磋琢磨していく「運」をつかむことで、選手としての精度を高められるでしょう」

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伊藤:
「とても心強いです。今までの人生で、一番濃かった一年。いろんなことがありました。お世話になったたくさんの方に頑張る姿を見せたい。試合が終わった後、自分が、何を思うのか、それが今から楽しみです」

竹下:
「彼女が一番成長したのは、そこだと思います。
自分のためだけでは、頑張りきれない部分もある。オリンピックのメダリストのコメントは、ほとんどが感謝の気持ちですよね。また、そういう人がメダルを取れるのではないでしょうか。彼女の将来に期待しています」

――― お互いへのメッセージを・・・。

竹下:
「楽しい、力が出せた、成長できたと思える試合をしてもらいたい。今の気持ちを試合で実現できれば、まわりも彼女もハッピーでしょうし、また、次に進んでいけるのではないかと思います」

伊藤:
「とにかく、頑張ります!」

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Location: ウインローダージムDecember 2012
Photo: Takeshi IjimaEditor: Takako Noma