Interview vol.9
中村和裕選手×マキシモ・ブランコ選手×竹下雄真

超一流の格闘家に学ぶ、貴重な機会。
『トップファイターに触れるということ』

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中村和裕(なかむら・かずひろ):生年月日:1979年2月21日。
日本の総合格闘家。広島県福山市出身。柔道三段。近畿大学附属福山高等学校、国際武道大学卒業。ニックネームは「キングカズ」。2013年2月16日に開催された総合格闘技『DEEP』ミドル級タイトルマッチにて勝利し、チャンピオンとなる。

マキシモ・ブランコ:生年月日:1983年10月16日。
ベネズエラのレスリング選手、総合格闘家。ファルコン出身。仙台育英高校、日本大学卒業。フリーランス。元ライト級キング・オブ・パンクラシスト。2009年、リングネームを真騎士に変更した。2008年7月、戦極(現・SRC)と戦極育成選手(現・SRC育成選手)として契約し、レスリングでのオリンピック出場も視野に入れつつ、総合格闘技の試合も行っている。2011年6月、SRCの活動停止に伴いSRC育成選手契約を解除。好きな選手はヴァンダレイ・シウバであり、自身もシウバのようなパワー溢れるアブレッシブなファイトスタイルを持つ。

――― 中村和裕選手、マキシモ・ブランコ 選手と、竹下さんの出会いは?

竹下雄真(以下:竹下)
「中村選手と僕は同い年で、僕の友人が、彼の通う大学に在籍していたのがきっかけでした。彼が格闘技を始め、僕は駆け出しのトレーナーの頃です。デポルターレクラブで指導をお願いするようになり、中村選手から、ブランコ選手を紹介して頂きました」

中村和裕選手(以下:中村)
「竹下さんはトレーナーとしてもクールで、当時から著名な方も担当されていましたね」

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竹下:
「知り合って10年程になります」

――― デポルターレクラブで、お二人の指導を導入された理由は?

竹下:
「トレーニングに、さまざまなスポーツや武道を活かしたいという想いからです。格闘技は、どちらが強いか、という人間の本能をスポーツ化した究極のスポーツです。経営者、アーティストをはじめ、プロスポーツ選手に、魂のぶつかり合いのような、いつもと違うスポーツを体験してもらえたらと」

――― 中村選手は、つい最近 Deepでチャンピオンベルトを勝ち取ったばかり。ブランコ選手はラスベガスで UFCの試合が決まり、今、輝いている超一流の選手。デポルターレクラブで教えることへの意気込みは?

マキシモ・ブランコ選手(以下:ブランコ)
「ワクワクしています。教えながら、自分にもいい練習になっています。デポルターレクラブはマシンも素晴らしいし、スペースも広くて使いやすい。ありがたいですよ、本当に」

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竹下:
「だから、きついんですよ、自分の練習も兼ねているから(笑)。これが、アップかー?みたいな・・・」

中村:
「ついてこいって感じですよね(笑)。ブランコ選手は、ベネズエラから単身で仙台育英高校へレスリング留学。日本語が全く理解できないところから初めて、日本大学へ進学し、学生チャンピオンに。ベネズエラの代表の経験もある。アマを経験せず、いきなりプロです」

ブランコ:
「2008年から総合格闘技に転向し、吉田道場に。中村選手のことは、格闘技の試合をテレビでずっと観ていたので、実際に本人に会えたときにとても感動しました」

中村:
「初対面は、ブランコ選手が、チノパンとシャツで見学していて、誰も説明してくれず、外国人の方がいるなあという感じで(笑)。でも、二回目の出会いで実際に肌を合わせると、やはり凄かった。バックボーンが強いから、成長の度合いも桁が違う。格闘技に取り組んで約2年、5戦目でチャンピオンに。ものが全然違います」

ブランコ:
「カズ先輩を見て、僕も負けないように頑張らないといけないと思って・・・」

――― さまざまな選手と接してこられた中で、お二人に対する印象は?

竹下:
「中村選手は同い年の、33才なので現在もチャンピオンでいるのが、純粋にうれしい。俺らの世代もまだいけるんだって(笑)」

中村:
「最近、よくそういわれます(笑)。うれしいよって。これからも現役にはこだわりたいですね」

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竹下:
「野球だと、阿部慎之介選手も同い年。彼も、キャプテンで四番。スポーツ界でも、経済界でも、政界でも同年齢が活躍しているとうれしい。
ブランコ選手にはUFCという大舞台で、ベネズエラと日本を背負い、戦いに挑む姿に期待したい。それに、すごくナイスガイ。僕もベネズエラに行ってみたい(笑)」

ブランコ:
「高校からずっと日本にいますから、日本が好きですね。昨年、6か月ほど、アメリカで暮しましたが、日本に帰りたくてホームシックに」

――― 日本に、ホームシック(笑)

竹下:
「ラテン系の人が仙台育英高校に行くだけでも凄い。特に、高校の厳しい部活の生活ですからね」

ブランコ:
「ベネズエラでは、いとこが自衛隊でしたから、僕もいずれはその道に進むと思っていました。日本行きが決まり、母から語学学校で日本語を学ぶよう言われたのですが、当時の僕は、スペイン語は世界中で通じるからと勉強せずに来日して、大ショック。それ以降、母の言うことはすべて聞くようになりました(笑)。
初めて飛行機に乗り、24時間かけて来日し、ベネズエラだけが世界だと思っていた僕が、自然豊かな仙台で三年間過ごす。TVごしに渋谷の喧騒を知り、
「そんな日本もあるんだなー」
と思っていました。高校国体で5位に入り、大学で学生チャンピオン・・・、日本、最高です(笑)」

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中村:
「ブランコ選手の上京物語(笑)」

――― お二人のゆるい顔に接することができるのも、貴重な時間ですね。さて、日本の総合格闘技全盛期もUFCも経験された中村選手ですが、これからの格闘技への想いは?

中村:
「世界が熱狂するUFCのように、国内の格闘技も盛り上げたい。ここ何年は、人のつながりを通じて試合に臨み、仲間の顔が見える場所で、年相応の格闘技のたしなみ方をしています。身体能力の変化や経験による怖さも覚えながら、いろいろ研究中です」

竹下:
「トップファイターとして戦い、チャンピオン経験もある。再びUFCへ挑戦することを、皆は簡単にいうかもしれないけど、実際に経験した選手だからこそ、あの大変さを一番よく分かっていると思います」

――― MMAチャンピオンや、今まさに世界チャンピオンに挑む選手から、直接教わる経験など、なかなかありませんね。

竹下:
「ただ構えているだけでも、一流の雰囲気を感じ取ることができる。道徳的ではないかもしれませんが、どちらが強いかという本能が雄の動物にはある。UFCの社長ダナ・ホワイト氏のコメントに、「となりでスポーツをしている、と言われるのと、となりで喧嘩をしている、と言われるのとでは違う。誰もが「どこで、どこで?」となる。だから格闘技は素晴らしい」とあり、なるほどと思った。心が折れそうなときも、辛さや痛さから逃げたいときも、本能で勝ちをつかみに行く。
一般人が専門的な格闘技ジムに入るのはハードルも高いですが、パーソナルジムなら、ちょっとトライしてみることもできる。この試みが、格闘技を広めるツールになればと思っています。」

中村:
「パーソナルで、格闘技を学べるところはなかなかありません」

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竹下:
「他の練習生にまじってやるのと、超一流の選手に、パーソナルに指導を受けるのとではスタンスが違います。企業で多くの方に薫陶される方でも格闘技を学びやすい環境では」

ブランコ:
「45分のクラスの中で伝えたいのは、頑張ろう、あきらめない。自信、前向きな、エネルギー。楽しく明るく」

――― 格闘技は、他のスポーツと比べ、多くの危険も伴います。試合に臨むときの心境は?

中村:
「普段の練習がどう出せるか。相手ありきの中で、それがハマるのか、結構考えます。勢いだけでいったら終わりですね」

ブランコ:
「試合に向けての準備が大事。練習中に疲れて、途中でやめると、試合中にも同じことになる。練習中も、ぜったいにできる、あきらめないと続けていけば試合中も余裕。すべての生活が大事。今を大切にすれば、できます」

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ブランコ:
「夢に向けて、減量中です。4キロ落しましたが、後一か月で75キロから66キロへ、9キロ落します。自分で決めたことは、自分でやらなきゃ。ぜったいできる、妥協はだめ」

竹下:
「最近の減量は、どれだけリカバリーをさせるかが主流ですね。しかし普段からそれに慣れていないと、身体が動かなくなる。世界のトップファイターは、ドクターや栄養士が、ブルーベリーを粒単位で指示し、生理食塩水、ビタミンB6、B12を適宜点滴する。日本の格闘技も世界と戦うには、こうした準備とチームが必要になってくると思います」

中村:
「総合格闘技では、チームの総合力で体調を管理する環境づくりや、それを海外遠征でも整えられるかなど、課題がたくさん」

――― お二人の夢は?

中村:
「柔道のオリンピック選手を育てたい。それと、総合格闘技を権威あるスポーツにしたい」

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竹下:
「中村選手の夢に、僕がスポーツマネジメントについて大学院で学んだことや、ネットワークをうまく使えればいいですね」

ブランコ:
「夢はたくさんありますが、2つだけ話すと、UFCでチャンピオンになること。それと、日本の映画に出ることです(笑)
先輩が頑張ってくれているから、私も頑張る。どんなチャンスでもつかみたい!」

竹下:
「ブランコ選手はベネズエラから初めてUFCに挑戦する国民的スター。野球のラミレス、カブレラ、ペタジーニにつぐ、ベネズエラの有名人になりますね」

――― 格闘技には、国境も政治も超えたパワーがあります。お二人の夢をお聞きになられていかがですか。

竹下:
「デポルターレクラブで一番大切にしているのが、目標志向性です。チャンピオンを経験された方は、イメージが明確にできるからこそ、チャンピオンになっている。口に出し、頭で映像化し、イメージを強く明確に持つほど、夢はかなう。具体的なお二人の夢は、誰が聞いても実現しそうですね」

――― 最後に、お二人へメッセージを・・・。

竹下:
「ブランコ選手はUFCチャンピオンになったら、ベネズエラの大統領からの賛辞をはじめ、これまでとは異なるビックチャンスが舞い込むかもしれませんね。
カズ選手はプライド全盛の時に活躍し、そしてあのUFCの大舞台にも立ち、現在はDeepチャンピオン。そんな素晴らしいチャレンジができたことも、そのタイミングで、そのチャンスをつかんでいることも本当に凄いと思います。そういう意味でも、お二人は、とてもいい運気も持っていると思います。これからがさらに楽しみですね」

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Location: スポーツジムマーシャルアーツMarch 2013
Photo: Takeshi IjimaEditor: Takako Noma