Interview vol.10
池田拓也×竹下雄真

チームの調和を生むには、相手を知ること。
目標はひとつ、やり方はそれぞれ。

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池田拓也(いけだ・たくや):生年月日:1979年2月5日。
長野県生まれ。ラフティングチームテイケイ所属。ラフティング歴14年。IRF国際ラフティング協会公認インストラクター。IRF国際ラフティング協会公認ジャッジ。RAJラフティング協会公認ガイド 。1999年から5年間リバーガイドとして利根川・吉野川・ニュージーランド・オーストラリアで活動する。2004年からTeam Teikeiに加入。2005年からキャプテンとしてチームを牽引。2010年WRCオランダで長年の夢「世界一」を達成。家族は鬼嫁?と一姫二太郎三姫ちゃんの五人家族。

――― お二人の出会いと、その頃の印象は?

竹下雄真(以下:竹下)
出会いは「トレーナー養成クラスのクラスメートで、仲が良かった。タクの印象は当時から欲しいものへの執着心が強く、何にでも一生懸命だったことを憶えています。エピソードは、お話できないこともいろいろありますが、すっぽんみたいな執着力でしたね・・・(笑)」

池田拓也選手(以下:池田)
「知り合って、18年ぐらい。ユウマは当時から身体がでかく、持っているエネルギーが強くて惹きつけるものがあった。友人たちのリーダーで、僕もリーダーでしたが違うタイプだと思った。カリスマ性でひっぱるリーダーをはじめて見たので面白く、将来何かやるなと思っていました」

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――― ラフティングをはじめたきっかけは?

池田:
「18歳の頃、キャンプでラフティングを体験したのがきっかけです。その後、ツアー会社の企業研修でラフティングがあり、ラフティング自体も楽しいし、人が集まる雰囲気も良くて就職しました。長野出身なので、もともと自然の中にいるのも心地よかった」

竹下:
「タクは運動神経がすごく良くて、小さな身体なのにベンチプレスは100kgをラクラク上げるし、夏はラフティング、冬はスキーとなんでもできた」

池田:
「その後、オーストラリアでラフティングをしていましたが、『日の丸をつけたい』『一番になりたい』『いろんな場所に行きたい』との思いから日本へ戻り、レースに出場するためのチームセレクションを受けました」

――― 学生時代から今まで、連絡は取り続けていたのですか?

竹下:
「当時の僕は365日中360日働いている生活で、彼もオーストラリアでの海外生活で、お互い離れていたので、お互い「頑張っているか?」など連絡はちょくちょく取っていました。」

池田:
「その頃から、ユウマはTVでも活躍していて「同級生なんだ」と友人に自慢していた。今も刺激されますね」

竹下:
「僕は、仲間の彼が世界チャンピオンになったことが純粋にうれしくて、これからも、どんどん活躍して欲しいと思っています。仲間が活躍していると、ただただ誇らしい」

――― そもそも、日本人が世界チャンピオンになる競技自体がなかなか無い中、池田さんは、一度のみならず、何度も世界チャンピオンを獲得されていらしゃいますね。

池田:
「2004年4月、全日本メンバー入りしてすぐ、6月のヨーロッパ遠征では70組中39位で、女子チャンピオンよりも遅かった。そこからのスタート・・・。
一体何を練習したらいいかも分からなかった。水泳やカヌーなど、他の競技者にもプライドなんて関係なく、聞きまくりました。最初は相手も「どうして?」って感じでしたが、何度も続けると熱意が伝わり、いろんな人がアイディアで助けてくれた。団体競技ですからチーム全体でどうしたいかを協議し、具体化していく中で、少しずつ結果もついてくるようになった」

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――― 初めて世界チャンピオンになったとき、どんな気持ちでしたか?

池田:
「チャンピオンになった瞬間は、正直にいうと実感はなくて・・・。表彰台の一番上で君が代を聴いたときに、ぐっときました。このために今までやってきたのかと。でもその思いも一瞬で消えました。帰国して、いろんな人から祝福されて、ああ、チャンピオンになったんだとあらためて思ったりして」

竹下:
「競技としてのラフティングは、常日頃の鍛練はもちろん、息を合わせることが重要。自然が相手ですから、他の競技とは根本が違う。天候、川の流れ、視界など刻々と変わる環境に対峙し、チームメイトと気持ちを合わせる、すごい競技だと思います」

――― 6人の力を調和させるために、気をつけていることは?

池田:
「『彼はこういうことが好き』とか『こういうときには、こう感じる』などそれぞれの感覚を、日常生活の中からあえて共有します。例えば、同じ映画を見ても、良かったと思うシーンを共有し、お互い理解を深め合う。1つのものを動かすために、有効なメンタルトレーニングです。
月に一度、『ブックシェア』もやります。選手に本を読ませ、好きなフレーズをコピーして全員に配ります。たった2ページの中でも、いいと思う個所は違います。
隣でボートを漕いでいる相手の好みを全く知らないより、お互いの好みを共有したチームの方が強くなる。フィジカルだけで戦おうとすると、外人はでかいし強い。日本人の強みを活かして勝負するように工夫しています」

――― 手探りでトレーニング、練習メニュー開発を行う中、調和していくためのチームづくりを取り入れるようになったのですね。世界的にも行われているのですか?

池田:
「他国の選手とも練習の情報交換をしますが、聞きませんね。日本特有なのかもしれません」

竹下:
「ブラジルだと、試合前に音楽を聴いたり、太鼓をたたいたり、踊ったりするラテンの調和があります。ブックシェアは『静』から『動』を考える、日本っぽいですね」

竹下:
「ラフティングメンバー6名は、それぞれ考えていることが違って当然です。生まれ、生活環境、食事、DNAが違いますから、同じなわけがない。デポルターレクラブでも同じで、1人1人に合わせた内容を提供しています。
ラフティングは、調和スポーツのNo.1かもしれません」

池田:
「運命共同体ですね」

竹下:
「うちのスタッフでやったら、どうなるかなあ(笑)」

池田:
「『彼はやっぱりこう思っていたか』とか、違って当然。あえて統一する必要はなく、感覚だけを統一する。『目的はひとつ、あとは自由』にしないとストレスが生まれる。それが分かる前は、チームワークの名目で、なんでもひとつにしようとしていた。土台があるから自由にできる。ただ自由にするだけでは、滅茶苦茶になる」

竹下:
「デポルターレのトレーナーは国籍、年齢などさまざま。どういう目標を決めて、1人1人の個性が発揮できるか。組織論としても、その考え方は重要」

――― 「調和=感性をリンク=世界一」この考え方はいろんなスポーツにも、企業組織にもヒントになりますね。

池田:
「セミナーの講師として、チーム組織論を講演し、社会活動にも取り組んでいます。入口はラフティング体験、その中に学びがある。世界チャンピオン獲得の実績も、組織論の説得力に影響していると考えます」

――― 試合前に必ず行うことは、ありますか?

池田:
「スタートラインにいるときに、すでに優勝したイメージをしておくことです。練習中から、優勝の疑似体験を行ない、お立ち台でのヒーローインタビューを選手同士でやります。『勝ったポイントは?』と質問に、『○○をやっていたからです』と答える。 このように脳を錯覚させると、実際のことだと脳が判断します。初優勝の前にもやりました」

竹下:
「『結婚式を控えた花嫁は必ず美しくなる』とデポルターレクラブでも言っていますが、イメージができあがっていることが、結果に繋がります。タクは世界の川で、僕は西麻布で、やっていることは同じですね(笑)」

池田:
「こうして対談する機会がなかったら、お互いに知らなかったね(笑)」

竹下:
「多くのトップアスリートに接していますが、皆さん同じ思考です。そうなることを疑わない自分が一番強い。『信じて疑わず、これだと思って打ち込める人』。これって、人間というクオリティの中で定められた、人類の法則なのかなあ」

――― 今後の目標は?

池田:
「ニュージーランドで11月に開催される世界選手権に向けて、自分達が取り組んできたことを証明したい。人と自然を、人と人を繋ぐために、ラフティングは興味深いツールです。日本はもちろん、世界の人々のために、少しでも役に立つように、いろいろな人の協力を得ながら、活動の幅を広げたい。アスリートの体験も含め、書籍なども出版していきたいと思っています」

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――― 最後に、お互いにエールを・・・。

竹下:
「11月の世界選手権で、三連覇をしてもらいたい。それは、本当にすごいこと。 デポルターレクラブでも、6月30日に『世界チャンピオンと乗るラフティング体験会』を開催します。世界一の船頭(笑)とともに、非日常の中、本当の意味でのラフティングができる貴重な体験です。ラフティングの奥深さを多くの方に知ってもらい、ラフティング競技を広めるために協力したい」

池田:
「ユウマを追いかけてきているスタンスは、今も変わらない。これからもずっと見ているし、どんどん大きくなってもらいたい。またいつか、こういう対談ができる機会があるとうれしい」

竹下:
「あのころは良かったなあ、若かったし、夢があったね・・・なんて、ワンカップを飲みながら話したりして(笑)。 これからも、よろしく!」

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Location: 平塚馬入ふれあい公園June 2013
Photo: Takeshi IjimaEditor: Takako Noma