Interview vol.19
康井義貴×竹下雄真

ヘルスケア産業だけでなく日本が強くなっていくためには、リーダーとして第一線を走っている人たちが、危機意識を持つことが重要だと思う。

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康井義貴(やすい・よしき)株式会社Origami 代表取締役CEO。1985年トロント生まれ。トロント、ニューヨークで幼少期を過ごし、10歳から東京に在住。シドニー大学留学、早稲田大学卒業後、米大手投資銀行Lehman BrothersでM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルDCM Venturesで米国、日本、中国のスタートアップへの投資を手掛ける。2012年、Origami(オリガミ)設立。

竹下雄真(以下:竹下):
康井さんには約1 年前からデポルターレに来ていただいているのですが、担当のトレーナーが「(トレーニングの)結果が出るのが早い」と話していましたよ。これまで何かスポーツなどされていたのでしょうか?

康井義貴(以下:康井):
スポーツは小さい頃からやっていましたね。生まれがカナダのトロントなのですが、トロントでは皆がアイスホッケーやっていて、僕も2、3 歳の頃からスケートリンクに通っていました。10 歳のとき日本に移住してからはテニスをはじめて、毎日テニススクールに行くようになり、アメリカのサマーキャンプにも参加していました。テニスは16 歳頃までやっていて、全日本ジュニアに出ていました。

竹下 :
それはもう、かなりのアスリートですね。きっと基礎を持たれているから、トレーニングの順応も早いんだと思います。康井さんはスタートアップの経営者としてご活躍されていますが、身体を動かし鍛えることにどのような意味を感じていますか?

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康井:
ひとつは体調管理ですね。ビジネスはマラソンなので、今後何十年とやっていくために身体作りというのは必須だと思っています。あとは精神衛生上、すごく良いんですよね。身体は疲れるんですが、アドレナリンが出るので頭もスッキリして、仕事の効率も上がるんです。心と身体はつながっていますからね。

竹下 :
幼少の頃からアスリートとして頑張られた経験があるから、今ビジネスをされている中でも身体を動かしていた方がリズムを作りやすいのかもしれないですね。

康井:
そうかもしれません。あとは単純に、ストイックにやるのが好きというか。追い込むのが好き、みたいなところもあるかもです(笑)。

竹下 :
ちょうど先日、Origami のサイトにデポルターレのショップもオープンさせていただきました。まだ商品はあまり多くはないですが、健康やスポーツに関わるものを、徐々に紹介していきたいなと思っています。

康井:
ジムにいる瞬間ってスイッチが入るので、たとえばプロテインをすごく摂取したくなったりするんですけど、ジムを一歩出てしまうとあまりそういうテンションにならないというか、なかなか接点を持てないんですよね。ジムの外に出ても、もっと簡単につながりを持てる仕組みが作れるといいな、と。新しい商品のお知らせや、イベントの告知だけでもいいと思うんです。Origami はそういう関係を作ってあげられる存在でありたいと思っています。
従来のE コマースは、自動販売機みたいに商品が並んでいて、それを消費者が選ぶという一方通行だったんですよね。ただ、最近はスマホによって矢印の向きも多様化してきている。これまでオンラインのショッピングは、ユーザーが既に欲しい商品を検索して買うという「目的買い」が大多数だったのですが、実世界のショッピングはそうではなくて、「衝動買い」が殆どだったりします。オンラインでも「衝動買い」が生まれるような環境を作っていきたい、と思っています。

竹下 :
スポーツやフィットネス、健康といった僕等の業界って、遅れているんですよね。2、30 年も前のダイエット方法が、今も変わらずに続いていたりします。昨今は大手IT企業などが健康・ヘルスケア分野に参入していますが、彼等はフィットネスのプロではない。身体の根本の部分を理解していないと、本当に価値あるヘルスケアサービスは提供できません。そうした異分野の人たちと、僕等みたいな健康やフィットネスのプロである人間がちゃんと組めたら、新しいイノベーションも生まれるんじゃないかと思います。

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康井:
ヘルスケアの分野、特にフィットネス周りはオールドインダストリーであるが故に、リアルな場所がすごく大切なんですよね。いくら減量のゲームやっても減量できないので、自分が意思を持って身体を動かさなきゃいけなくて、そのハードルがすごく高い。
たとえばスマートフォンを使って、気軽に接点を持たせてあげるような仕組みを作っても、結局は僕がいつも必死でやっているようなトレーニングに置き換えなきゃいけない(笑)。予防医学のマーケットはアメリカや中国でも大きくなってきてはいますが、クリティカルなサービスはまだまだこれからと感じています。

竹下 :
アメリカのヨガ人口は2000 万人以上で、15 人に1 人はヨガをやっている計算です。アメリカの場合は社会保険の問題なんかもあったりして、国民の健康が国家の将来を左右するようなテーマになっていますよね。日本のフィットネス人口は、ずっと変わらず3%なんです。

康井:
僕はアメリカに長く住んでいたのですが、アメリカの経営者ってほとんどの人がランニングやトレーニング、ヨガなど何らかのワークアウトをしているんですよね。僕もヨガをやっていますが、日本だと「男なのにヨガやるんだ」となるじゃないですか(笑)。これまで海外で長く過ごしてきて感じるのは、日本人は危機意識がすごく弱いということです。日本って今、恐ろしくイノベーションが起こり難い状況になっていて、経済の状況もご存知の通りなので外国人には「これで大丈夫か」と見られています。僕はOrigami を立ち上げる前、シリコンバレーで投資業をしていたんですが、中国やアメリカにはたくさんの資金が投下される一方で、残念ながら日本は投資対象としてほとんど見られていない。それが悔しいなという思いもあって、Origami という名前で今の会社を立ち上げました。でも日本にいると、誰もそんな話はしてないし、政治にも経済にも興味がある人が少ない。海外にいた期間が長い分、「これで大丈夫なのだろうか?」と強く感じます。ヘルスケア産業だけでなく日本が強くなっていくためには、少なくともリーダーとして第一線を走っている人たちが、もっと危機意識を持たなくちゃいけないんだと思います。

竹下 :
最近、僕もシンガポールやクアラルンプールなど東南アジア諸国によく行くのですが、現地のジムを見てみると、もう日本の全然先を行ってるんですよね。少なくともハード面では完全に負けている。丸の内みたいなエリアに1000 坪くらいのジムがあって、そこでビジネスマンの人たちがガンガンワークアウトしてるんです。しかも、そのジムはただお金があるからできたものではなく、ちゃんと(フィットネスを)わかってる人がデザインしているジムなんです。僕はフィットネスのプロだから、トレーニング器具の配置やチョイスしているエクササイズを見れば大体わかる。アメリカはフィットネス大国ですけれど、東南アジアもこんなに進んでいるのか、と。正直驚きました。

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康井:
文化の違いというか、「カッコイイ」の価値観の違いもあるんでしょうね。アメリカ人の理想的な男性像って、ちゃんとトレーニングしているガッチリした人じゃないですか。極端にいうとアバクロのモデルみたいな(笑)。だから、身体を動かしたり鍛えたりすることが称賛される風潮があるんでしょうね。
実は起業においても同じことが言えて、日本って新しいビジネスを始める人に対してサポーティブじゃないんですよね。特にIT 系の場合、まだまだ「実体がない、チャラい」みたいな負のイメージを持つ人は結構いて。でも、アメリカは全然違う。ハーバードに行ってもスタンフォードに行っても「起業家になることがカッコイイ」という空気がある。事実、GoogleやFacebook等米国のイノベーションの多くは、テクノロジーの会社から出てきている。
シリコンバレーのカフェにいくと、そこら中で起業家と投資家がビジネスアイディアの話をしていて、あの空気感はものすごいんですよね。もちろん全て成功するわけじゃないのですが、その中からイノベーションが起きているので、そういうものを文化として皆受け入れているんです。

竹下 :
日本だと、たとえば会社勤めの人がジムに行ったりすると「あいつサボりやがって」というような風潮もありますよね(笑)。ヨガのマーケットも、まだ女性ばかり。でも海外では全然そんなことなくて、ビジネスマンからNFL の選手までヨガをやっている。
僕は今、ビジネスマン向けの媒体で「エリートビジネスマンは皆、ヨガをやっている」といった主旨の連載もやっていたりして。「え、まだやってないの?」という風潮を作っていきたいなと思っています(笑)

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Location: Origami head officeSeptember 2015
Photo: Yoshiki HaseEditor: Muneharu Uchino